介護保険法改正・介護報酬改定の動向について解説
高齢化が進む日本において、介護需要は年々増加しています。2024年の1月に行われた社会保障審議会では、介護報酬の改定が了承されました。改定内容は多岐に渡りますが、中でも注目度が高いのは処遇改善加算についてです。今回は、介護保険法改正・介護報酬改定の動向を介護の種類別に分けて詳しく解説するため、ぜひ参考にしてください。
加算体制の見直し
2025年は、団塊の世代が後期高齢者となるタイミングです。これまでよりもさらに介護需要が高まることが予想されており、2024年の介護保険法の改正を通して加算制度の変更や介護報酬の調整が実施されます。
報酬改定率の内訳は、介護スタッフの処遇改善として0.98%増加、本体が0.61%増加となっており、全体では1.59%増加です。また、本体の0.61%の中で、介護スタッフのみでなく看護スタッフ・ケアマネジャーなどの処遇改善対応が予定されています。
介護スタッフの処遇改善については、2024年6月の施行です。また、訪問看護・訪問リハビリテーション・通所リハビリテーション・居宅サービスの4つにおける報酬改定も、処遇改善と同時期の施行となります。そのほかの報酬改定は4月に施行され、2つのタイミングに分割しての改定となっているのが特徴です。ここでは、処遇加算体制の1本化と総合マネジメント体制強化加算の新設について詳しく解説します。
これまでの処遇改善加算について
日本では今後介護需要が高まることが予想される一方で、介護業界の人手不足は年々深刻化しています。処遇加算とは「介護職員等の処遇改善に向けた加算」の略であり、介護業界の人手不足解消と人材の定着を目的とした施策です。
介護業界の給与水準を引き上げることで人材を確保し、介護提供体制を整えることを目指しています。これまでに設けられた処遇改善加算には、介護職員処遇改善加算・特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算の3つがあります。
介護職員処遇改善加算は2012年の介護報酬改定によって定められたものです。また、特定処遇加算は2019年の介護報酬改定により設けられ、介護福祉士として一定年数以上働いている歴の長いスタッフの給与水準アップを目的としています。
介護職員等ベースアップ等支援加算は3つの処遇改善加算の中でもっとも新しく、2021年に創設されました。介護職員等ベースアップ等支援加算では、介護業界全体の基本給アップを目指しています。
3つの処遇改善加算が1本化される
処遇改善加算制度が設けられたことにより、2021年から2022年までで介護職員の基本給は1万円程度増加しました。しかし、処遇改善効果がしっかりと見られる一方で、現場では事務処理の煩雑さや、処遇改善加算があってもなお給与水準が低いこと、賃金だけでなく働く環境の改善も必要との声が上がっています。
2024年の介護保険法改正では、3つの処遇加算を「介護職員等処遇改善加算」として1本化してまとめられるのが特徴です。施行は2024年6月となっていますが、2024年2〜5月までは介護職員等ベースアップ等支援加算に上乗せする形で「介護職員処遇改善支援補助金」が導入され、毎月6,000円が補助されます。
処遇改善加算の1本化が適用される6月以降は、介護職員処遇改善支援補助金は補助金ではなく加算扱いとして取り入れられます。また、これまでの処遇改善加算を1本化した介護職員等処遇改善加算の詳細については発表されていないものの、区分分けにおける職場環境要件が変更となることや、1本化により現行の3つの処遇改善加算を下回るという事態はないことなどが明らかとなっているのが現状です。
総合マネジメント体制強化加算の新設
2024年の介護保険法改正では、総合マネジメント体制強化加算も見直されます。総合マネジメント強化加算とは、地域に密着したサービスを提供する事業者を対象として、地域・多職種との連携を図っていたり、環境に応じた計画の見直しをしていたりすることを評価して加算するための制度です。
総合マネジメント強化加算における地域密着型サービス事業には、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、介護予防小規模多機能型居宅介護の4つが挙げられます。
従来までの総合マネジメント強化加算は1,000単位/月となっていましたが、2024年の介護保険法改正により、800単位/月に引き下げられます。ただし、1200単位/月の総合マネジメント強化加算(Ⅰ)が新設されることによって、現行の総合マネジメント強化加算を上回る加算となるのが特徴です。
総合マネジメント強化加算の要件
総合マネジメント強化加算の算定要件には、利用者の心身の状況などを踏まえて各スタッフが共同して随時サービス計画の見直しを実施していること、地域の病院やその他関係施設などに対して事業所でのサービス内容について詳細な情報を提供していることが定められていました。
2024年の介護保険法改正では、総合マネジメント強化加算の算定要件として新たに複数の要件を追加し、事業所の種類別に必要な要件を分けて定めています。追加された要件の例は、利用者と関わりを持つ住民などの相談に日常的に対応していることや、地域住民や他事業所と共同して検討会や研修会を実施していること、利用者・地域住民の住まいに関する相談・支援に取り組んでいることなどです。
新設された要件は合計7つあり、事業種別ごとに決められた要件を3つ以上満たすことが求められます。
通所介護における動向
通所介護には個別機能訓練加算が設けられており、機能訓練指導員を配置して利用者ごとに計画書を作成し、実際に計画に基づいた訓練を実施することで算定対象となります。通所介護の個別機能訓練加算の概要と法改正による変更点は、以下の通りです。
通所介護における現在の加算内容
通所介護で算定できる加算は、通常の個別機能訓練加算(Ⅰ)と、LIFEを活用した個別機能訓練加算(Ⅱ)の2種類です。また、個別機能訓練加算(Ⅰ)は、時間の定めなく機能訓練指導員を専従スタッフとして1名以上配置した場合の「個別機能訓練加算(Ⅰ)イ」と、サービス提供時間内は機能訓練指導員を専従スタッフとして常に配置した場合の「個別機能訓練加算(Ⅰ)ロ」のさらに2種類に分けられます。個別機能訓練加算(Ⅰ)ロは、個別機能訓練加算における最高区分に該当します。
通所介護における介護保険法改正の影響
2024年の介護保険法改正により、個別機能訓練加算(Ⅰ)ロの要件緩和と評価の見直しが図られる予定です。これまで85単位/日と定められていた単位は76単位/日に変更となり、また、機能訓練指導員の専従スタッフに関する配置時間の定めがなくなります。
従来までは、たとえば看護師が機能訓練指導員を兼ねるケースにおいて、当スタッフを専従の機能訓練指導員としてカウントすることで、看護師としての人員にカウントできない決まりとなっていました。しかし、通所介護において丸1日機能訓練指導員として働く事例はほとんどないのが実情でした。今回の改正では通所介護における実情を踏まえ、配置時間を機能訓練の時間帯のみに緩和しています。
ただし、機能訓練指導員を機能訓練の時間帯に限定して配置するということは、実質的に報酬額が減ることを意味します。つまり、従来までの個別機能訓練加算(Ⅰ)ロに対応するために専従スタッフを常勤で採用している通所介護事業所では、報酬の減額によって人件費が増える可能性が高いです。
通所介護における入浴介助加算
通所介護の加算のひとつとして、利用者の入浴の観察・介助を提供した際に算定できる「入浴介助加算」があります。2024年の介護保険法改正により、入浴介助加算(Ⅰ)の算定要件の変更と、入浴介助加算(Ⅱ)の算定要件の緩和が実施されます。
入浴介助加算(Ⅰ)の加算要件の変更点は、入浴介助スキルの向上に向けて、新たに専用の研修を組み込むことです。現状では入浴介助加算(Ⅰ)を算定している事業者の40%ほどが研修を取り入れていないため、新たに算定要件として研修実施を取り入れることで、入浴サービスの質を向上させる狙いがあります。
また、入浴介助加算(Ⅱ)は同加算における上位区分に該当します。現行法では、医師や理学療法士、介護支援専門員などが利用者の自宅にて入浴における環境評価や個別の介助計画の作成・実際の介助を実施することによって算定可能です。しかし、人員確保や専門職同士の密な連携が難しいことから、入浴介助加算(Ⅱ)を算定している事業所は全体の10%に留まるのが現状です。
2024年の法改正では要件が緩和され、専門職以外の介護スタッフが現場で状況把握を行い、医師などの専門職スタッフがリモートにてチェック・助言する形であっても算定対象となります。
短期入所生活介護における動向
短期入所生活介護では基本報酬の見直しに加え、予防的措置として業務継続計画未策定の事業所に対する減算や高齢者虐待防止の推進、テレワークの取り扱い、ロボット・テクノロジーの活用推進などが新たに定められます。法改正による変更点でとくに注目すべきポイントは、以下の通りです。
短期入所生活介護における看取り対応体制
短期入所生活介護においては、現行法では看取り業務についての加算は定められていませんでした。しかし、看取り期にある高齢者が短期入所生活介護サービスを利用する際の体制強化のため、新しく看取り対応についての加算を設けることが決定しています。
そもそも短期入所生活介護の大きな目的は、利用者の自宅での生活を無理なく続けるための支援として、利用者の介護にあたっている家族が休息する時間を設けることです。利用者の中には当然在宅での看取りを望む人も多いため、短期入所生活介護スタッフにも看取り介護についての高い知識・スキルが求められます。看取り対応に関する加算を設けることで、看護スタッフの体制・対応方針も整えられるでしょう。
短期入所生活介護における長期利用
先述の通り、短期入所生活介護は利用者の介護を実施する家族の休息時間の確保を目的としています。本来の機能を維持して多くの人がレスパイト機能のメリットを享受するには、利用者のサービス連続利用を制限することが不可欠です。
実際に短期入所生活介護サービスでは30日以上の連続利用が禁止されていますが、特養等に入所できず、かつ自宅での介護が困難な高齢者の受け皿的な役割となっている事業者が増えているのが実情です。2024年の法改正では、短期入所生活介護サービスが本来の機能を果たして在宅介護で過ごす利用者とその家族を支援できるよう、長期利用者については報酬を減額する方針を固めています。
訪問介護における動向
訪問介護においての特定事業所加算とは、介護福祉士などの専門知識・スキルを備えた人材を採用し、高品質なサービスを提供する事業所を対象とした制度です。訪問介護の特定事業所加算は(Ⅰ)〜(Ⅴ)の5段階に分かれており、それぞれで算定要件や単位数が異なります。2024年の法改正による主な変更点は、以下の通りです。
訪問介護における看取り期対応
従来までは、特定事業所加算の区分分けにおける重度者への対応要件として、要介護度4以上であることのほか、たんの吸引対応が必要であること、認知症患者であることなどが定められていました。今回の法改正を受け、新たに看取り期にある高齢者へのサービス提供が要件として追加されることが決まっています。
訪問介護における同一建物内に住む利用者へのサービス提供の減算強化
訪問介護では、サービス付き高齢者向け住宅に住む利用者へのサービス提供の増加が問題視されているのが実情です。問題視されている理由は、同じサービス付き高齢者向け住宅に住む複数の利用者に対して訪問介護を提供していると、その分移動の手間・負担が大幅に少なくなるためです。
現行法でも同一の建物内に住む利用者へのサービス提供は報酬の減額が適用されていますが、法改正によってさらに減額が強化されます。
特別養護老人ホームにおける動向
特別養護老人ホームでは、今回の法改正によって9種類の加算要件が新設されます。具体的な変更点は、以下の通りです。
特別養護老人ホームにおける透析患者の送迎評価
特別養護老人ホームの利用者の中には、透析を受けるために病院に通わなければならない人もいます。基本的には透析を行う病院側で送迎を担当するケースが多いものの、特別養護老人ホームのスタッフが月に12回以上送迎した場合には、送迎が評価されて加算の対象となる制度が新設されます。
特別養護老人ホームにおける緊急時対応に関する見直し
今回の法改正により、緊急時対応について定める際は医師や協力医療機関と相談し、協力を得ながら内容を決定することが必要です。さらに、利用者への医療・サービス提供体制の確保のため、最低でも1年に1回は緊急時対応の見直しを行うことが求められます。
その他の介護サービス・施設における動向
2024年の介護保険法改正による変更点は多岐にわたります。ここまで紹介した業種以外の介護サービス・施設においても、改正によってさまざまな制度が新設・変更されるのが特徴です。具体的な改正点の例は、以下の通りです。
老人保健施設
老人保健施設においては、利用者の在宅復帰を目標とした取り組みを評価する方針が固まっています。在宅復帰に向けたリハビリ計画や専門職スタッフの配置などに対して新たな加算を設けることで、老人保健施設の役割・備えるべき機能を明確にしています。
居宅介護支援
現行法では、居宅介護支援を担当する件数を40件以上となった場合に報酬を減額することが定められていました。しかし、今回の改正によって減額の対象が45件以上60件未満に緩和されます。さらに、ICT機器を利用した場合や事務スタッフを配置した場合における遁減は45件以上となっていましたが、改正によって50件以上60件未満に緩和されます。
まとめ
今回は、2024年の介護保険法改正・介護報酬改定の動向について、加算体制の見直しや総合マネジメント強化加算の改正点のほか、各介護サービス・施設の主な改正点や動向について詳しく解説しました。日本では高齢化の進行を背景として年々介護需要が増加しているにも関わらず、いまだ介護業界の給与・賃金は他業種と比較して安い傾向にあります。
今回の改正では基本的には介護業界全体の報酬をアップさせることを狙いとしていますが、加算の新設・変更などの詳細は介護業種ごとに大きく異なります。詳しい条件や数値が明らかになっていない点も少なくないため、大まかな改正内容を頭に入れつつ、今後の動向についても注目しましょう。介護保険法・介護報酬改定について知りたい人や、介護業界で働いている人は、今回の記事をぜひ参考にしてください。